旅館料理に活かされるコックシステム

 先日とある食のイベントでニューヨーク帰りの方からこんなことを聞きました。「おまかせで、を使いこなすニューヨーカーまでいるんですよ。」と。

 「おまかせ」といえば、鮨屋で「いいとこ握って」とカッコよく旦那が言い放つ姿が思い浮かびますが、前提として「食べて死なない」「まずくない」という店との信頼関係がないと「おまかせ」なんてできません。そんな客側のプライドを刺激しながらも、板場としても仕入れた魚を店の都合で出すのですから「おまかせ」は好都合。そもそも、山海の食をとことん活かすのであれば「献立は仕入れによる」が正しい在り方だと思います。前菜からデザートまで事前に公開されたものを出すということは、高値のものを無理に仕入れるのことで全体の質に影響が出てきたり、冷凍や加工品を使わざるを得ないことになるからです。

 地方の旅館に行きますと、あらかじめ献立が決まっていることが正しい在り方とされている風潮があります。「献立の内容は変更する可能性があります」と謳うこともはばかれるぐらいに。そこには、飲食店と異なり、旅行会社経由の予約に依存している点や旅館の利用者の大半は一見さんであることから、予約した料金に対する料理の内容を公表しておかないと信頼されないという二点に起因していると考えます。
直接予約が増え、お得意さんが増えれば「おまかせ」という、客側も店側も双方にとって都合がよい形ができるのかもしれませんが、そう簡単ではありません。では、どうすれば良いのか?

最近では、二次加工したものや解凍するだけの加工品を販売する事業者を上手く活用している宿が見られるようになりました。え?冷凍?と思われるかもしれませんが、単なる冷凍品ではありません。プロの料理人が旅館の主人と相談しながら地場の文化や食材を生かした一品を考案し加工していきます。最新の冷凍と解凍技術が生かされたものになるので美味しさも約束されています。

こういった技術と質が旅館の料理のこれからの救世主になることは間違いないでしょう。日本料理人と配膳をする人材は減るばかり。しかし、日本料理の需要は海外を含めて大いにある。それであれば、品数は固定し、主菜だけは完全なる現地調理にするにしても、前後の定番料理は最新の技術に頼ったら良いと思うのです。

「おまかせ」と「定番」のハイブリッドというコックシステム。長時間労働を課さなければならないから人材が足りない、と嘆く前に、工夫できることはありそうですね。