甲州市裂石温泉~pH9.9の秘湯「雲峰荘」と勝沼の旅~

※本紀行文については「まえがき」をご覧ください。
春休みの最後に甲斐路へショートトリップしてきましたのでレポートです。
新宿駅発「かいじ」の車内は桜と富士山を目的とするインバウンドが多く見受けられましたが大月駅でドッと降り、私が降車した「塩山駅」で降車したのは住民と思しき方々でした。
「塩山」という地名の由来を改めて調べてみますと、市内にポコッとある山が「四方からみえる山」→「しほの山」→「塩ノ山」となったようです。山から塩が摂れので塩がついた地名もありますが異なるようです。目指すは甲州の秘湯「裂石温泉 雲峰荘」。路線バスが発車する時間まで塩山駅周辺を散策することにしました。

駅の北口に降り立つと目に飛び込んでくるのが立派な切妻屋敷。「旧高野家住宅 (甘草屋敷)」は薬草の一種である甘草を栽培して江戸幕府に納めていたとされ建物は国の重要文化財に指定されています。桃の季節ということで雛飾りがされており、秋には伝統食である「枯露(ころ)柿」が吊るされるそうです。

こちらの小屋は「地実棚」と呼ばれ作物を天日干しにするために南側の片方だけ茅葺が切り落とされているそうです。全国でも見られない貴重な造りだとか。確かに初めて見ました。

昼ご飯は塩山駅から果樹園を横目にしながら徒歩15分ほどで到着する「甲州ほうとう 完熟屋 本店」。農家が営む店ということで外観内装ともに古民家の設えでした。

鉄鍋にたっぷりと盛られた「野菜ほうとう」。手作りだという味噌が見た目の色によらず優しい味わいで飽きることなく平らげることができました。県内に5店舗運営をしているだけあってデジタルオーダーやキャッシュレスなどオペレーションもスムーズで快適でした。

塩山駅から山梨交通の路線バスに乗車し目指すバス停は「大菩薩峠登山口」。約30分の道のりは緩やかに坂を登り、斜面には葡萄畑や桃畑の草花が色づき始めていました。4月下旬には正に桃源郷のようでしょう。バス停で降り国道411号線沿いに坂道を登ると見えてくる看板を目印に川沿いの小道へ入ります。この国道411号線とは新宿で目にする青梅街道。大菩薩峠を越えて裏甲州街道をいった昔の人の健脚ぶりは想像を超えるものがありますね。

川沿いを進んで見えてきた赤い橋を渡ると今晩の宿「裂石温泉 雲峰荘」です。住所にある萩原には甲斐武田家の風林火山を示す旗が残る「雲峰寺」があり歴史が深いところのようです。裂石温泉というので温泉の湧出メカニズムと関係があると思いきや、石が裂けたように見える巨石「裂石(さけいし)」が411号を下ったところにあるので、そちらの石に由来するかと推測します。

お着きの部屋菓子は「自家製黒米の切り餅」。ロビーにある炭の囲炉裏でこんがりと焼き上げ砂糖醤油でいただきます。これが本当に美味しく、黒米は翌朝の朝食にも出てきます。売店で生の黒米が販売されているので自宅用に購入しました。黒米以外にも地元の果物を使ったジャムやケーキなどの菓子製造や温泉水をボトリングした物販を熱心にされていて、小さい秘湯ながら工夫を感じました。

上の写真はが本館から赤い橋を渡った対岸にある渓流沿いの露天風呂。源泉が約26度低いため加温された湯が注がれています。露天風呂は一か所だけなので基本的には混浴ですが、女性用の湯浴み着の貸し出しも行っています。夜7時~9時は女性専用となるので気兼ねなく湯浴みを楽しむことができますが、やはり明るいうちに緑を楽しみながら入るのが最高ですね。

本館内の内風呂は2か所あり夜と朝で男女が入れ替わります。上の写真は小さいほうの浴場で、左側の湯舟が低温の源泉が注がれ右側には加温されたもので満たされています。浴場は岩をそのままに屋外に設置した湯船を建屋で覆うように造られていることから、新鮮な湯が源泉から最短距離で運ばれていることが分かります。泉質は低調性アルカリ性単純温泉、pH値9.90、硬度6.2。これだけpH値が高いと湯触りはトロットロ!湯上りはツッパルかなと思いましたがそれほど強くはありませんでした。顔には化粧水が必要でしょう。

夕食は秘湯の宿らしく手作りの和食が並びます。特に美味しかったのが茶碗蒸し。翌朝の朝食には青色の殻をしたアローカナ卵が生卵として出てきましたが同じ卵が使われているかは分かりません。特別なコクがありました。そして嬉しいのはリーズナブルな甲州のグラスワインが豊富なこと。もちろんボトルもあります。湯上りに肩肘張らずワインと和食を堪能できるのは甲州ならではの楽しみですね。

翌日は4月になろうというのに雪が降った塩山エリアから一駅隣の勝沼ぶどう郷駅へ移動してきましたが、散策するにも寒すぎて早々にランチタイム。「勝沼食堂 パパソロッテ」は駅徒歩3分というアクセスながら眼下に葡萄畑が広がるという勝沼ならではの時間を過ごすことができます。ランチはパスタを中心とした2種類のコースから選べる1時間制。予約したほうがベターです。グラスワインは甲州のものが赤白それぞれ2種類ずつがありました。

店内からの眺め。夜は夜景が綺麗そうです。ディナーを食べて最終の特急で帰る。そんなデイトリップにもしてみたい!

旅の終わりは葡萄の出荷に大きな役割を果たした中央線の廃線へ。勝沼ぶどう郷駅から徒歩5分のところにある「大日影トンネル遊歩道」。山々を切り開き塩山の土で作られた煉瓦で積み上げられたトンネルは水が多く出たことからレールの真ん中に水路が掘られています。東京駅から100キロの看板には胸が震えました。先人たちの苦労は計り知れないですね。この先にある別の旧トンネルではワインを貯蔵する「勝沼トンネルワインカーヴ」も入口だけ見学することができます。産業遺産を観光に活用する事例は多くありますが随一ではないでしょうか。葡萄の郷に経済効果をもたらした中央線が今もなお多くの旅人を運んでいます。