YUDANAKA BREWERYCOMPLEX U~”旅館の多角化”最前線~

※本紀行文については「まえがき」をご覧ください。
歴史深い北信の温泉場「湯田中温泉」に2022年秋にオープンした「YUDANAKA BREWERYCOMPLEX U」は、飲む、食べる、癒す、買う、観る、が一度にかなう日帰り施設。遅ればせながら訪問レポートいたします。
温泉街から離れたところに立ち、洗練された佇まいからして、そのオーナーが旅館だと分かる人も少ないでしょう。こちらを仕掛けたのはルーフトップバーやサウナ付き露天風呂付客室で人気の温泉旅館「あぶらや燈千」。
二階建ての1階には、ハンバーガーをはじめとするカジュアルな食事と醸造家が手掛けたクラフトビールを楽しめるレストランとパティシエが工房で作るチョコレートや菓子類を買うことができます。驚くのは醸造家もパティシエも自社の社員であり、全て店内で製造しているということ!クラフトビールのタンクや瓶は温泉街の旅館はもとより飲食店にも卸していて、チョコレートや菓子類もオンライン販売をしています。
1階のレストランで出されるフードは隣接する旅館の厨房で作っているといいます。ここが旅館の多角化のキモ!旅館といえば朝食と夕食の間の仕事が無いために昼間の時間に休憩させる「たすき掛け」というシフトがあります。従業員は中抜けといっても活用するには十分な時間ではないため長時間拘束されているという不満だけが残りがちなのです。そこで、中抜けの時間に調理場もサービススタッフも隣接する施設のシフトに入ってもらうことで、新しい収益事業の展開とスタッフのムダな待機時間を無くし従業員満足度もあがるという一石二鳥となるのです。その前提にはマルチタスク制という旅館が長年培ってきたノウハウがあるのですが。
レストランでのフードの提供は15時迄とし営業は18時迄。15時以降は旅館の厨房は宿泊者のための時間となりレストランでは火を使わない軽食が出されます。

コロナで大打撃を受けた宿泊業。不測の事態のリスク回避として宿泊業以外の様々な事業が構想され実施されていますが、「YUDANAKA BREWERYCOMPLEX U」は、製造業、飲食業、小売業、日帰り温泉業という多角化を成し遂げています。旅館に隣接する土地に開業することは必須条件であったことでしょうが、ムリムラムダを新しい収益の源泉としている点は教科書となりうる事例でしょう。

2階にはサウナと露天風呂がついた客室が3室と露天風呂だけついた客室が4室。こちらは宿泊する部屋としても十分なほどの機能とサービスですが時間貸しの日帰り施設なのです。貸切風呂を好む外国人旅行者、赤ちゃん連れやご高齢者と一緒の家族など利用の目的は多岐にわたりそうです。

景気の波も自然の災いも真っ先にくらう観光産業。深く沈み込んで高くジャンプ!そんな逞しさと勢いを感じた「旅館の多角化」でありました。